2025年11月24日、東京・TOYOTA ARENA TOKYO。
キックボクシングの「神童」からボクシング転向わずか2年で世界戦まで駆け上がった那須川天心と、2度の世界戴冠を誇る技巧派チャンピオン、井上拓真。
この二人が争うのは、空位となっていたWBC世界バンタム級王座だ。ベルトは、前王者・中谷潤人がスーパーバンタム級へ階級を上げたことで返上されている。
World Boxing Council
「総合打撃の天才」vs「ボクシング技術の職人」。
バックボーンもファイトスタイルも対照的な日本人同士の世界戦は、単なる国内頂上決戦を超え、バンタム級世界戦線の勢力図を書き換える一戦になる。
ネット上ではAmazonプライムで独占配信となっています。

2025 WBC世界バンタム級王座決定戦 那須川天心 vs 井上拓真
対戦カード概要
試合日程・会場・タイトルの位置づけ
- 大会名:Prime Video Boxing 14 ~WBC世界バンタム級王座決定戦~
- 日時:2025年11月24日(月・振替休日)
- 会場:TOYOTA ARENA TOKYO(東京・江東区青海/約1万人収容)
- 階級:バンタム級(53.5kg/118ポンド)
- タイトル:空位のWBC世界バンタム級王座決定戦
- 配信:Amazon Prime Video 独占ライブ配信
日本人同士が海外4団体メジャータイトルを争う世界戦は珍しくなくなったが、「世界的知名度を持つストライカー同士の激突」という意味では、今後のマッチメイクにも直結するカードだ。
2025 WBC世界バンタム級王座決定戦 那須川天心 vs 井上拓真
両者の戦績・肩書き・ランキング
那須川天心(Teiken)
- プロボクシング:7戦7勝(2KO)
- プロキックボクシング:42戦42勝(28KO)
- MMA:4戦4勝(3KO/TKO)
- 2023年4月ボクシング転向。ジェイソン・モロニー、ビクター・サンティリャンら世界レベルの強豪を次々に攻略し、わずか7戦でWBC世界王座挑戦にたどり着いた。
井上拓真(Ohashi)
- プロボクシング:22戦20勝(5KO)2敗
- 主要タイトル:
- 元WBA世界バンタム級王者
- 元WBC世界バンタム級暫定王者 ほか複数地域タイトル
- 世界戦で計6度リングに立ち、ソリス戦でWBA王座獲得、アンカハス戦では9ラウンドKOというキャリア最高の内容も残している。
無敗で勢いに乗る“新星”と、起伏も経験も全て背負ってリングに戻る“二度目の王座奪回を狙う元王者”。キャリアの「流れ」が対照的なのも、このカードのドラマ性を高めている。
那須川天心の戦力分析

キック最強からボクシング転向まで
那須川は、キックボクシングで42戦全勝、MMAでも無敗という圧倒的な実績を引っ提げてボクシングに転向したストライカーだ。
転向当初は「パンチだけの競技に適応できるのか」という懐疑的な声もあったが、デビューからの7戦を見る限り、その不安はほぼ払拭されたと言っていい。
世界ランカーや元世界王者を立て続けに撃破し、プロボクシング開始から2年足らずで世界タイトル戦に到達するスピード感は、まさに“天才型”の軌跡だ。
「宇宙人スタイル」──ボクシング4戦以降の進化
那須川のボクシングスタイルは、サウスポーを軸にしたボクサーファイター型。前手のジャブの使い方が独特で、視界の外側から飛んでくるような軌道で相手のリズムを狂わせる。
キック時代からの武器であるハンドスピードは健在どころか、パンチに特化したことで“無駄のない直線的な一撃”へと変貌。そこにフットワークと空間把握能力が噛み合い、「攻撃を誘ってからカウンターを差し込む」高度な戦術が完成している。
ジョナサン・ロドリゲス戦以降は、単なるアウトボクシングにとどまらず、前に出てプレッシャーをかける場面も増えた。相手の動きを読み切った上で、瞬間的にスイッチを入れてラッシュに転じる、その“ON/OFFの切り替え”こそが那須川の真骨頂だ。
攻撃力:ジャブ・左ストレート・カウンターの質
- ジャブ:軌道とリズムが読みづらく、“見た瞬間にはもう当たっている”タイプ。
- 左ストレート:踏み込みが浅くても届くほどの腕の伸びとタイミングの良さがあり、クリーンヒットしたときの瞬間的なダメージは大きい。
- カウンター:相手の攻撃の戻りに合わせた左、あるいはワンテンポ遅らせた右フックは、世界レベルの精度と言っていい。
KO率だけ見れば2KOと突出してはいないが、ジャブとカウンターで試合を支配し、相手の手数を奪うタイプの“支配型ストライカー”である。
守備・フットワーク・スタミナ
ディフェンス面では、ステップバックとスウェーを組み合わせた“距離のディフェンス”が特徴。被弾率は低く、クリンチも必要最小限で済ませる。
スタミナについては、モロニー戦・サンティリャン戦と10ラウンドのハイペースを経験済みで、後半に顕著な失速は見られていない。むしろ、相手の疲労を見極めてギアを上げる余力を残していた印象だ。
メンタル・ビッグマッチ経験
キック時代から大舞台には慣れており、メイウェザーとのエキシビションも含め“異常なプレッシャー下”での経験値は豊富だ。
今回がボクシング初の世界戦とはいえ、「大舞台そのもの」に怯むタイプではない。むしろ、観客の期待を楽しみに変えるエンターテイナー気質が強く、メンタル面の不安要素は少ない。
2025 WBC世界バンタム級王座決定戦 那須川天心 vs 井上拓真
井上拓真の戦力分析
エリートコースを歩んだ“職人型”チャンピオン
井上拓真は、兄・尚弥の陰に隠れがちな存在と評されることも多いが、そのキャリアは紛れもないエリート路線だ。
プロ5戦目でOPBF王座を獲得し、その後WBC暫定王座、WBA世界バンタム級王座とメジャータイトルを次々と手にしてきた。
2度の世界タイトル獲得、6度の世界戦経験という“積み重ね”は、那須川にはまだないアドバンテージだ。
テクニック重視のアウトボクシングとポジショニング
井上の本質は「打たせないボクシング」。
バックステップ、ウィービング、ショルダーブロックなどディフェンス技術を高い精度で使い分け、相手の有効打を極限まで減らしながら試合を作る。
- 距離管理:半歩単位で出入りし、相手のパンチが届かないところに立つ。
- ポジショニング:正面を外しながら右ストレートやショートアッパーを差し込む“職人芸”。
- カウンター:相手の手数が減った瞬間にリズムを取り返す、嫌らしいタイミングのジャブとワンツー。
大振りは少なく、基本に忠実なフォームから確実にポイントを積み上げるタイプだ。
攻撃力と課題
数字上のKO率は22.7%(20勝中5KO)と、世界王者クラスとしては高くない。
一方で、アンカハス戦ではキャリア最高の内容と評される9ラウンドKO勝ちを収めており、「決してパンチがないわけではなく、噛み合えば倒し切れる」ことも証明している。
課題としては、
- プレッシャーを受け続けたときに消極的になりやすい
- 大舞台でのメンタル面の浮き沈み(ウバーリ戦、堤聖也戦の敗北で露呈)
という二点が挙げられる。
チャンピオンとしての完成度と試合運び
それでも、試合運びの巧さは天心を凌ぐ。
長いラウンドを戦いながら、相手の変化にアジャストし、ジャッジの印象を理解したポイントメイクを行えるのは、世界戦を経験してきた者だけの強みだ。
那須川の“爆発力と瞬間の破壊”に対し、井上は“精度と積み重ね”。
この対照的な強みが、試合のペース争いをより複雑にする。
2025 WBC世界バンタム級王座決定戦 那須川天心 vs 井上拓真
スタイルの噛み合わせを読む
「変則サウスポー vs 正統派テクニシャン」
構図だけ見れば、
- サウスポーの那須川
- オーソドックスの井上
という、典型的な“左右対決”だが、実際の噛み合わせはもっと複雑だ。
那須川は、サウスポーから独特なリズムでジャブとフェイントを多用する“変則型”。
井上は、右構えの基本に忠実な“職人型テクニシャン”。
サウスポーへの対応経験という点では、キャリアの長い井上に分があるはずだが、那須川のリズムは「サウスポー対策」という教科書だけでは追いつかない部分がある。
序盤の主導権争い
序盤(1〜4R)での鍵:
- 那須川
- ジャブとフェイントで、まずは“拓真の距離とリズム”を崩せるか
- 早い段階でクリーンヒットを奪い、“スピード差”を印象づけられるか
- 井上
- 那須川の初速をいかに落ち着いて受け止められるか
- 空振りを誘発しながら、カウンタージャブで「簡単には入らせない」というメッセージを送れるか
ここで那須川が一方的にペースを握ると、井上は「攻めに転じるきっかけ」を失いやすい。逆に井上が序盤から的確なカウンターを返せば、那須川の攻めも慎重になり、ポイントゲームの色合いが濃くなる。
中盤以降の修正力
**中盤(5〜8R)**では、修正力とアジャスト能力が勝負を分ける。
- 那須川:
- 相手がアジャストしてきた後に、再度“形を変えて崩しにいけるか”。
- スイッチや角度の変化、急なラッシュなど、第二・第三のパターンをどこまで出せるか。
- 井上:
- 相手の癖を完全に読み切り、「当てさせず、当てる」自分の土俵に持ち込めるか。
- 那須川の攻撃テンポを1段階落とし、カウンター戦に引きずり込めるか。
ここは、長いラウンドを何度も経験してきた井上のほうに理論上のアドバンテージがある。
終盤のポイント配分
終盤(9〜12R)は、
- スタミナ
- 精神力
- 「勝っている/負けている」という自己認識
がジャッジへのアピールに直結する。
世界戦経験の差から言えば、井上は“終盤のポイントメイク”に長けている。一方で、那須川はここまでの7戦で「終盤に大きく崩れた試合」がない。
判定勝負になれば、
- 明確なクリーンヒットと攻勢の天心
- 緻密なディフェンスとジャブで“試合をコントロールする”拓真
のどちらを評価するかは、採点基準とジャッジの好みに左右される接戦になる可能性が高い。
2025 WBC世界バンタム級王座決定戦 那須川天心 vs 井上拓真
技術・シナリオ別の勝敗予想
データ・傾向から見えるもの
- 那須川:7勝2KO、被弾率の低さと手数でラウンドを取っていくタイプ。
- 井上:20勝5KO2敗、連続KOよりも判定で確実に勝ちを拾ってきた職人型。
どちらも“ワンパンチで試合を終わらせる典型的なハードパンチャー”ではなく、KO決着の可能性はゼロではないが、確率としては判定決着のほうが高いと言わざるを得ない。
実際、井上の元対戦相手であるジェイソン・モロニーも「両者ともにKOで倒し切る決定的なパワーより、スピードと技術の勝負になる」と見立てた上で、天心の判定勝ちを予想している。
那須川天心が勝つ3つのパターン
- 大差判定(118-110〜117-111付近)
- 序盤からジャブとスピードで主導権を握り、井上にほとんど有効打を許さない。
- 接戦判定(115-113〜116-112)
- 中盤に修正されつつも、要所要所でクリーンヒットを奪い、僅差ながら“効いたパンチ”で上回る。
- カットやダウンを絡めた判定
- どこかのラウンドでダウン、もしくはカットを奪い、内容以上にスコアでリードを作る展開。
那須川にとって重要なのは、「相手を完封しようとしすぎないこと」。
多少被弾してでも、要所でリスクを取りに行けるかどうかがポイントになる。
井上拓真が勝つ3つのパターン
- 中盤以降の巻き返しによる判定勝ち
- 序盤はやや後手でも、5Rあたりから那須川の癖を完全に掴み、ポイントを連取。終盤は落ち着いたアウトボクシングで逃げ切る。
- カウンターでのダウンを含む判定
- 那須川の前のめりな攻撃に対し、右ストレートやショートアッパーでフラッシュダウンを奪う展開。
- 天心の手数とペースを削いだ“渋い判定”
- 派手さはなくとも、ジャブとボディで地味に効かせ、ジャッジに「仕掛けているのは拓真」と印象づける。
井上にとってキーになるのは、「無理に倒しに行かないこと」。
KOにこだわると手数が増え、逆に那須川のカウンターの餌食になりかねない。
判定になった場合の採点イメージ
筆者のイメージでは、判定決着の場合、
- 116-112
- 115-113
あたりのスコアが現実的なラインだろう。
序盤〜中盤のラウンド配分次第で、どちらにも傾き得るシビアな差である。
2025 WBC世界バンタム級王座決定戦 那須川天心 vs 井上拓真
勝敗予想とスコア
本命・対抗・大穴
- 本命:那須川天心 判定勝(UD)
- 対抗:井上拓真 判定勝(僅差の2-1)
- 大穴:どちらかの中盤以降のTKO
大方の見立て同様、私も「判定決着」を軸に予想する。
具体的な予想
- 予想結果:那須川天心が3-0判定勝ち
- 予想スコア:116-112(8R-4R)前後
根拠は以下の3点だ。
- スピードと初動の差
- 序盤の数ラウンドは、那須川のスピードとリズムに対し、井上が様子見を強いられる展開になると見る。
- 那須川の“総合打撃IQ”
- 相手の癖を読む力、距離感、フェイントワークは、ボクシングに特化してまだ2年とは思えないレベルにある。
- 井上のメンタルの揺れ
- 過去の世界戦で、プレッシャーの中でやや消極的になった場面がある。天心の手数と観客の期待が重なることで、判定上不利に働く可能性がある。
とはいえ、“10-2で那須川圧勝”というイメージではない。
あくまで「取り合うラウンドが多い中で、クリーンヒットと攻勢で一歩リードするのが天心」という予想だ。
分水嶺となるポイント
- 那須川が「当てた後に食うカウンター」をどこまで減らせるか
- 井上が「スロースタート」を脱し、序盤からある程度ポイントを拾えるか
- どちらがボディを有効に使い、相手の足を止められるか
これら三点のうち二つを制したほうが、12ラウンド後にベルトを巻いている可能性が高い。
勝敗予想としては那須川天心を本命視したが、実力差は決して大きくない。
- 那須川がスピードと閃きで主導権を握るのか
- 井上が経験と職人芸で“天才の暴走”を封じ込めるのか
12ラウンドの中で、流れは何度も揺れ動くだろう。
視聴者としては、
- 序盤のジャブとフェイントの駆け引き
- 中盤の修正合戦
- 終盤の「どちらが取りに行くか」の覚悟
この三つのフェーズに注目すると、単なる“スター同士の殴り合い”ではなく、“高度なチェスのような世界戦”として、より深く楽しめるはずだ。
ネット上ではAmazonプライムで独占配信となっています。

